遺産相続については、基本的に相続人である本人もしくは弁護士などの代理人が遺産分割協議を行って、それぞれの相続分について取り決めをします。

ところが、相続人が高齢で、認知症や痴ほうなどで正常な判断ができない場合については、成年後見制度を利用しなければなりません。

そこで今回は、成年後見制度の仕組みや流れなどについて詳しく解説します。

成年後見制度とは

認知症や痴ほうなどの精神障害や、交通事故などで植物状態になってしまわれた方については、自らの意思で正常な判断をすることが困難になります。

成年後見制度とは、そういった判断能力が十分ではない方が不利益を被らないように、本人を援助する人を付ける制度のことです。

具体的には、家庭裁判所に申し立てをして、援助する人となる成年後見人が選任されます。

成年後見人になれる人

成年後見人は家庭裁判所が選任しますが、申し立ての段階で成年後見人候補者を提出することも可能です。成年後見人となるために、特別な資格は必要ありませんが、以下に該当する人については成年後見人にはなれません。

成年後見人になれない人

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
  • 破産者
  • 本人に対して訴訟をしている人やその配偶者、その直系血族
  • 行方が分からない者

これらのいずれかに該当する場合については、成年後見人にはなれません。
相続などをきっかけに成年後見人の申し立てをする場合については、親族ではなく弁護士などの専門家に成年後見人を依頼することもあります。

成年後見人ができること

成年後見人は、本人に代わってあらゆる法律行為を全般的に行うことができます。
成年後見人ができる主な行為は以下の通りです。

  • 預貯金口座の管理や解約
  • 保険金の受取
  • 介護施設や老人ホームなどの入所手続き
  • 本人の行った法律行為の取り消し

相続においては、本人に代わって遺産分割協議に参加するなど相続手続きを行うことになります。

遺産相続で成年後見人が必要になるケース

次のようなケースについては、遺産分割協議を始める前に成年後見人の申し立て手続きを行う必要があります。

相続人が認知症や痴ほうである(精神障害や知的障害など)

相続人が認知症や痴ほうを患っている場合については、遺産分割協議で正しい判断をすることができないため、事前に成年後見人の申し立て手続きが必要になる場合があります。

相続人が植物状態である

交通事故で遷延性意識障害など正常な意識が戻らない、いわゆる植物状態になっている方が相続人の場合についても、遺産分割を始める前に成年後見人の申し立て手続きが必要になる場合があります。

無視して遺産分割協議をしたらどうなる?

遺産分割協議に参加するためには、正常な意思能力が必要なため、意思能力がない相続人を形だけ遺産分割協議に参加させたり、その人を無視して遺産分割協議をしたとしても、すべて無効として扱われます。

意思能力がない人が一方的に不利益を受けることを防ぐため、成年後見人が選任されるまで遺産分割協議はできません。

成年後見の手続きが遅れるとどうなる?

意思能力がない人が相続人に含まれている場合は、成年後見人の申し立て手続きをして、成年後見人が選任されてからでなければ、遺産分割協議を進めることができません。

では、これらの手続きが遅れた場合、遺産相続にどのようなデメリットが生じるのでしょうか。

相続税申告が不利になる

相続税については、同じ財産を相続する場合でも、相続する相続人や割合などによって、課税される相続税に違いが出てくるため、遺産分割をする際には、相続税にも注意しながら、相続分を話し合って決めていくことがとても大切です。

ところが、成年後見人の選任がされないと遺産分割協議が始められないため、相続税申告までに間に合わなければ、法定相続分の割合に従って相続税申告をすることになってしまいます。

不動産を共有することになる

遺産分割協議によって不動産を分けることができないため、1つの不動産を法定相続分に応じて、すべての相続人で共有することになってしまいます。

不動産を共有すると、行為に応じて共有者の同意が必要になるため、共有者の足並みがそろわないと、不動産を運用することが困難な状態に陥るのです。

また、共有者のうちの1人が亡くなって相続が発生すると、さらに共有持ち分が分散して、1つの不動産に対して権利を有する人がどんどん増えていってしまうというデメリットもあります。

成年後見人の申し立て前に当事務所にご相談を

成年後見人の申し立てが必要になるケースについては、判断や段取りを間違えると他の相続人とトラブルになったり、遺産分割のやり直しが必要になったりする可能性がありますので、事前に一度当事務所までご相談いただくことをおすすめしています。

また、成年後見人が選任されても、成年後見人が相続人である場合には利益相反行為となり、さらに特別代理人の選任も必要なため注意が必要です。

事前に当事務所にご相談いただければ、相続財産の状況やご家族関係などの詳細をお伺いしたうえで、成年後見人の申し立て手続きをしたほうがよいのか、また、成年後見人を申し立てるとして、ご親族の方と弁護士、どちらが成年後見人になったほうがよいのか、などについて具体的にアドバイスいたします。

初回相談料は無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

その他の関連記事

相続人が未成年者や胎児の場合はどうなるのか

相続が発生した際に、相続人が未成年者の場合については、本人自らの意思で遺産分割協議に参加することは難しいため、通常とは違った手続きが必要になります。 また、相続人がまだ生まれていない胎児の場合についても、通常とは違った流…

相続人ではなくても遺産を取得できる特別縁故者とは

遺産相続については、原則として相続人でなければ遺産を相続することができません。 ただし、相続人が1人もいないケースについては、特別縁故者として認められれば、相続人ではなくても遺産の全部または一部を取得することができます。…