※ご理解しやすいよう、ここでは遺産をすべて「預貯金」と仮定しています。
ご依頼の背景
父親、母親、姉、弟の4人家族で暮らしていましたが、父親が15億円の財産を保有して死亡し、法定相続割合どおりの遺産分割をしました。父親が死亡して半年後に母親が死亡しました。
顧問税理士に相続税の申告を依頼したところ合計約11億円の相続税がかかると試算されました。
両親ともに死亡したあとなので対策はなく、相続税額を小さくすることは難しいと言われたが、なにか方法はないか、と相談に来られました。
専門家の回答
この事例では、両親ともに多額の財産を有している場合、かつ、それぞれの死亡日が近い(と想定される)、ことが特徴となっています。このような場合には、一般的には必ずといっていいほど適用する”配偶者の特例”を適用しないほうが相続税額を小さくできる可能性があります。
“配偶者の特例”とは、母親が父親の財産を相続する場合、母親の相続税の負担額を軽減する特例をいいます。この特例を適用すると、1億6000万円、あるいは、法定相続分のいずれか多い金額までの財産を母親が相続した場合には、母親には相続税がかからなくなります。
したがって、父親の財産15億円のうち、母親の法定相続分(1/2)相当の7億5000万円までの財産を母親が相続した場合には、その相続税はかからないこととなります。
詳細な計算は別途記載するとして、どのような結果になったかというと、”配偶者の特例”を適用しなかった場合は適用した場合よりも約1億3600万円税額が小さくなりました。
”配偶者の特例”を適用した場合 | 10億9855万円 |
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”配偶者の特例”を適用しなかった場合 | 9億6213万2400円 |
差額 | 1億3641万7600円 |
このような差が生じる理由は、①父親の相続時に支払った相続税額が母親の相続財産から控除できること、そして、②相次相続控除という制度があるためです。
“相次相続控除”とは、2次相続開始前10年以内に被相続人が相続財産を取得し相続税が課されていた場合などには、その被相続人から二次相続で相続財産を取得した人の相続税額から、一定の金額を控除する制度をいいます。
要は、父親の財産15億円を母親が相続したことにより母親に相続税がかかり、母親の相続でもその15億円に相続税がかかるとすると、父親の財産15億円に2回相続税がかかってしまうため、それぞれの相続が10年以内に発生した場合は、2回相続税がかからないように軽減しますよ、という制度となります。
そのため上の事例では、母親が父親の相続時に負担した3億315万円のうち、2億7283万円が相次相続制度により控除されます。(詳細な計算は別途記載)
なお、それぞれの相続の間隔が短ければ短いほど軽減される税額は大きくなります。
繰り返しになりますが、①両親ともに多額の財産を有している場合、かつ、②それぞれの死亡日が近い場合、あるいは、近いと想定される場合など、に限定されます。
①は、両親ともに資産家の出身であったり、夫婦バランスよく生前に資産を分散させている場合などに多くみられます。
②に関しては、あまりないと思われるかもしれませんが、樹木希林さんと内田裕也さん、朝岡雪路さんと津川雅彦さんに見られるように、配偶者が旅立ってすぐ後を追いかける、ということはよくあります。
なお、このケースは父親の遺産分割が決まった後に母親が死亡しましたが、母親が父親の財産を法定相続分以上に相続するほうが相続税額をさらに小さく抑えることができることも考えられます。
相続税を小さくする観点から、母親の相続まで考えて、父親の相続の遺産分割方法を検討することは多くありますが、”配偶者の特例”を適用することを前提に進めることがほとんどですので注意が必要です。
わたしどもが関与した事例では、父親の相続申告期間中に、母親が死亡したことから、母親の相続がいつ発生するかという不確定要因がなくなったため、このようなシミュレーションを行い、相続税額を抑えることが可能となりました。